正しいPMI講座

事業譲渡と株式譲渡の違いはなに?メリット・デメリットや選ぶ理由を解説

2021/07/12正しいPMI講座

事業譲渡と株式譲渡は、特によく使われているM&Aの手法です。しかし、どんな基準で選べばいいのか悩んでしまうこともあるのではないでしょうか。

そこで本記事では、M&Aを検討している方へ向けて、事業譲渡と株式譲渡の違いやそれぞれのメリット・デメリットなどをわかりやすく解説いたします。

 

M&Aにおける事業譲渡とは

事業譲渡は、会社における事業の一部、もしくは全てを第三者の企業に譲渡(売却)する方法です。商品や不動産といった有形のものから権利、ノウハウなど無形のもの、人材や取引先をはじめ、あらゆる財産が対象になります。

すべての事業を譲渡する「全部譲渡」と、譲りたい一部の事業だけ譲渡する「一部事業」があり、状況や目的に応じて選択可能です。

一部譲渡とは

範囲を定め、一部の事業のみを譲渡する方法が一部譲渡で、取引を行う当事者間で譲渡範囲などを自由に決められます。

売り手側にとっては、「自社に残す事業」と「売却する事業」を明確化し選択できる点が大きなメリットです。一方買い手側にとっても、「欲しい事業」「必要な事業」だけを買収できるため、リスクを抑えられるほか、負債を引き継ぐ必要がないといったメリットがあります。

全部譲渡とは

全部譲渡とは、会社の事業の全てを他の企業に譲渡する方法です。

 

M&Aにおける株式譲渡とは

株式譲渡は、株主が会社の株式を売却し、新たな株主に会社の所有権を移転する方法のこと。中小企業においては経営者個人が株主を兼ねているケースが多いため、所有権と経営権の両方を移転する形になります。

 

事業譲渡と株式譲渡の違いとは

事業譲渡と株式譲渡には、具体的にどういった違いがあるのでしょうか?

・譲渡する対象
・取引相手
・契約内容
・実施目的

に分けて、それぞれ解説していきます。

事業譲渡と株式譲渡の違い1:譲渡する対象

事業譲渡の対象は、事業です。事業に必要なヒトやモノ、ノウハウや権利などあらゆる財産の一部もしくは全てが対象となります。

反対に株式譲渡は、株式が譲渡の対象になっています。

事業譲渡と株式譲渡の違い2:取引相手

事業譲渡と株式譲渡は、取引相手が異なっています。それぞれの特徴をまとめた表が以下の通りです。

売り手側 買い手側
事業譲渡 法人 法人
株式譲渡 株主(経営者) 法人

事業譲渡と株式譲渡の違い3:契約内容

事業譲渡では、事業譲渡契約を結びます。資産目録(会社が所有している資産の一覧)をもとに、譲渡対象の資産や負債などを定めていきます。契約によって移転するものは、事業(ヒト、モノ、権利など)の全部、もしくは一部分です。

一方、株主譲渡では株主譲渡契約を結びます。中小企業においては株主が経営者であるケースが大半なため、所有権や経営権などが移転します。

事業譲渡と株式譲渡の違い4:実施目的

事業譲渡と株式譲渡は、実施目的も異なります。

売り手側 買い手側
事業譲渡 ・事業の選択および集中(経営の効率化)
・事業再生
・事業拡大
・新規事業への参入
株式譲渡 ・事業承継や経営強化 ・経営権の取得
・事業拡大
・新規事業への参入

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?それぞれ見てきましょう。

事業譲渡のメリット1:経営の効率化【売り手側】

売り手側企業が複数の事業を行なっている場合、一部譲渡を行なうことで中核事業に集中でき、結果的に経営の効率化が図れます。採算が取れていない事業や資金が不足している事業がある場合に効果的で、事業再生を目指したいときに向いている手法といえるでしょう。

事業譲渡のメリット2:必要な事業だけを獲得できる【買い手側】

買い手企業にとっては、丸ごと会社を買わずに必要・欲しい事業を選択して買収できるのが、事業譲渡の大きなメリットです。もちろん交渉内容にもよりますが、不要なものを買収する必要がないので、取引を進める上で生じるリスクや資金を抑えられるでしょう。

事業譲渡のメリット3:債務・負債のリスク回避ができる【買い手側】

転移する資産を選択できるため、債務や負債を抱えるリスクが少なくなります。売り手企業の債務や負債が自動的に移転することはない点は、買い手企業にとって大きなメリットといえます。

事業譲渡のデメリット1: 手続きが煩雑である【売り手・買い手】

買い手・売り手企業ともに、手続きが煩雑になってしまうことが、事業譲渡のデメリットです。

売り手企業が事業譲渡を決定するには、株主総会の特別決議が必要になるケースが大半。発行済株式総数の過半数にあたる株式をもつ株主が出席し、その議決権の三分の二以上の多数によって進められる決議のため、時間や手間がかかってしまいます。

買い手側においても、売り手側が従業員や取引先と結んでいた契約を再度締結する必要があり、時間や手間がかかる手続きといえるでしょう。

事業譲渡のデメリット2: 譲渡後の事業内容に制限がかかる【売り手側】

事業譲渡を行うと売り手企業に、競業避止義務(事業譲渡したものと同種の事業を一定期間行わない義務)が課せられます。当事者の意思表示がない限りは20年間この義務が課せられてしまうため、注意が必要です。

事業譲渡のデメリット3: 許認可の譲渡ができない【買い手側】

買い手企業は人材紹介業や産業廃棄物処理業といった事業の許認可を引き継げないため、新たに取得する必要が出てきます。

株式譲渡のメリット・デメリット

続いては、株式譲渡のメリット・デメリットについて、詳しく見ていきましょう。

株式譲渡のメリット1:会社の存続ができる 【売り手側】

所有権および経営権は移転するものの、株式譲渡は会社をそのままの形で存続が望めます。後継者不足や経営の行き詰まりによって譲渡を検討しているオーナーにとっては、大きなメリットでしょう。

株式譲渡のメリット2:経営者に売却益がある【売り手側】

中小企業は経営者個人が株主であるケースが多くなっています。そのため、株式譲渡をする場合は取引で得た買収益を経営者個人が手にすることが可能です。その利益をもとに新規事業を立ち上げたり、老後の資金にしたりすることもできるでしょう。

株式譲渡のメリット3:許認可の引き継ぎができる【買い手側】

事業譲渡では許認可を引き継げないため、再取得が必要です。しかし株式譲渡では会社をそのまま引き継ぐため、許認可の引き継ぎが可能に。許認可が必要な事業でもそのまま続けられるため、余計な手間がかかりません。

株式譲渡のメリット4:株式の比率を調整することで意思決定権を保有できる【売り手側】

もし売り手側が「経営における影響力を残しておきたい」と考えているなら、株式の全てを譲渡しない選択もできます。過半数の株式を譲渡すると経営権は失ってしまいますが、三分の一以上の株式を保有し続けていれば、株主総会の特別決議を単独否決できます。

株式譲渡のデメリット1:株式の取得に手間がかかる【売り手側】

株式譲渡を行うには、事前に譲渡する株式を集めておく必要があります。

しかし、特に中小企業では株券と株主の情報の記憶が残っていないケースなどがあるため、取りまとめに時間と手間がかかってしまうでしょう。自己保有以外の株式がある場合は、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。

株式譲渡のデメリット2:債務や負債を含めて引き継ぐ必要がある【買い手側】

株式譲渡最大のデメリットは、債務や負債を含めて引き継ぐ必要がある点でしょう。経営権および所有権の譲渡となるため、移転する資産の選別はできません。

そのため、買い手側は事前に簿外債務なども確認しておくと良いでしょう。

事業譲渡を選ぶ理由

事業譲渡のメリットやデメリットがわかりましたね。その上で、事業譲渡を行う理由について売り手・買い手に分けて紹介していきます。

事業譲渡を選ぶ理由【売り手側】

売り手側が事業譲渡を選ぶ理由として考えられるのは、以下の通りです。
・本業は自社で続けながら、採算が取れていない事業や資金が不足している事業を売却したい
・収益性の高い事業を売却し、本業に資金にしたい
・経営の効率化を図り、事業再生を目指したい

事業譲渡を選ぶ理由【買い手側】

一方、買い手側が事業譲渡を選ぶ理由として考えられるのは、以下の通りです。

・必要な事業、欲しい事業だけ買収したい
・債務や負債を引き継がないようにしたい
・買収額を抑えたい
・リスクを抑えたい

株式譲渡を選ぶ理由

続いて、株式譲渡のメリット・デメリットから見えてくる株式譲渡を選ぶ理由について、買い手側・売り手側それぞれ見ていきましょう。

株式譲渡を選ぶ理由【売り手側】

売り手側が株式譲渡を選ぶ理由として考えられるのは、以下の通りです。

・後継者がいないので、会社をまるごと売却したい
・経営を引き継いでもらいたいと考えている
・株式を売却して利益を得たい
・買収益を利用して老後資金にしたい、新しい事業をはじめたい

株式譲渡を選ぶ理由【買い手側】

一方、買い手側が株式譲渡を選ぶ理由として考えられるのは、以下の通りです。

・売り手企業の人材や取引先、ノウハウなど資産をすべて得たい
・煩雑な手続きを避けたい
・売り手側の事業規模が小さいため、買収するにあたって負担やリスクが少ない

まとめ

事業譲渡と株式譲渡の違いや特徴、メリット・デメリットについて解説いたしました。

株式譲渡は株式を譲渡して経営権自体を移転するため、買い手側にとっては債務や負債も引き継ぐ形になります。事業譲渡は必要な事業のみを買収できるためリスクは抑えられるものの、手続きの手間がかかってしまいます。

事業譲渡にしても株式譲渡にしても、それぞれ長所と短所があるため、企業ごとの状況やオーナーの考え方によって選択は変わってくるでしょう。そのため、どのような選択を取るべきかよく考えて決断することが重要です。

とはいえ、どのような手段を採用するかはなかなか判断が付きにくいもの。事業譲渡・株式譲渡どちらを選ぶか判断が難しいそうだと感じているなら、ぜひお気軽にPMI総研にご相談ください。皆様のご相談・お問い合わせを心よりお待ちしております。